ある春の日のこと、私は東京の地下鉄で中年の女性に出会いました。彼女は新聞を読みながら、仕事や家事の悩みを話していました。彼女の声には、男女の差別への不満と、自分の可能性を発揮できない現状への焦りが伝えられました。
この出会いが、私が女性差別撤廃条約について考えるきっかけになりました。
女性差別撤廃条約は、1979年に国連総会で採択されました。1986年に日本で発効しました。この条約は、女性差別をなくし、男女の平等を目指しています。現在、189の国と地域がこの条約を批准しています。
本記事で学べること
- 女性差別撤廃条約の意義と主要な内容
- 日本における条約批准と実施状況
- 世界各地域のジェンダー平等への取り組み
- ジェンダー・ギャップ指数に見る男女格差の実態
- 女性の地位向上を通じた現代社会への影響
女性差別撤廃条約とは
「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」は、女子差別をなくし、男女平等を目指す国際条約です。この条約は、女性の人権を守り、男女平等の促進を図っています。
正式名称と基本理念
この条約の正式名称は「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」です。女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃と人間の尊厳を基本理念としています。条約は、権利の平等を実現するための具体的な措置を求めています。
条約採択と発効の経緯
この条約は、1979年12月18日の第34回国連総会で採択されました。1980年3月1日に署名開放され、1981年9月3日に20番目の批准・加盟国の加入書寄託日の後30日目に発効しました。
女性差別撤廃条約の主な内容
女性差別撤廃条約は、女子に対する差別を禁止します。政治、経済、社会、文化、市民の分野で、女子が男女平等を認め、自由を享受する権利を守ることを目指しています。締約国は、この差別を禁止し、法律や慣習を修正することが求められます。
差別の定義と締約国の義務
条約は、政治的・経済的・社会的・文化的分野における女性への差別を禁止します。さらに、関連する法律・規則・慣習の修正・廃止を義務付けています。これにより、実質的な平等の促進が求められます。
暫定的特別措置と母性保護
条約は、締約国が男女の事実上の平等を促進するための暫定的な特別措置をとることは差別とは解釈されないと規定しています。さらに、締約国が母性を保護することを目的とする特別措置も差別とは解釈されないと定めています。これにより、母性保護措置の導入が推奨されています。
女性差別撤廃条約は、締約国に対して差別の禁止や実質的な平等の促進、母性保護などの措置を求めています。政治的・経済的・社会的・文化的分野における女性の地位向上に大きな影響を及ぼしています。
日本と女性差別撤廃条約
日本は女性差別撤廃条約に大きく貢献しています。1980年7月に署名し、1985年6月に批准しました。日本は定期的に報告書を提出し、審議を受けます。
7回の報告書提出と審議がありました。最新の第9回報告書は2021年9月提出でした。日本政府は、法制度の改善や施策の実施に取り組んでいます。
日本の署名、批准と実施状況
- 1980年7月に条約に署名
- 1985年6月に批准
- 定期的に条約実施状況報告書を提出
- 女子差別撤廃委員会による審議を受けてきた
- これまでに7回の審議を受けている
- 最新の第9回報告書は2021年9月に提出
女性差別撤廃条約選択議定書
1999年に採択された「女性差別撤廃条約選択議定書」は、条約の実効性を強化するための重要な補足的措置となっています。この選択議定書には、「個人通報制度」と「調査制度」の2つの手続きが設けられています。
個人通報制度と調査制度
個人通報制度では、条約で保障された人権を侵害された被害者が、国内の救済手続きを尽くした後、条約機関に申立てを行うことができます。一方、調査制度では、通報された内容をもとに女性差別撤廃委員会が調査を行い、その結果と措置を締約国に通知することになっています。
これらの仕組みは、条約の実施状況を監視し、締約国に具体的な改善を促す役割を果たしています。
日本の選択議定書批准に向けた取り組み
日本政府は第5次男女共同参画基本計画で、選択議定書の早期締結について検討を進めると述べています。しかし、未だ批准には至っていません。一方で、複数の地方自治体からは、政府に対し選択議定書の早期批准を求める意見書が提出されています。今後、日本政府は司法制度や立法政策との関連課題の整理を含め、選択議定書批准に向けた取り組みを加速することが期待されています。
女性差別撤廃条約以降の世界のジェンダー平等への取り組み
女性差別撤廃条約が締結された後、世界中で女性の権利向上が進んでいます。主な取り組みは次の通りです。
国連の行動計画と地域ごとのアプローチ
1975年、国連は「世界行動計画」を採択しました。これは各国に、国内外での行動指針を示しました。1985年のナイロビ会議や1995年の北京会議など、定期的な会議が開かれています。これにより、地域に応じた施策が推進されています。
SDGsにおけるジェンダー平等目標
2015年に、持続可能な開発目標(SDGs)が採択されました。ジェンダー平等が重要視されており、目標5がジェンダー平等の実現を目指しています。各国はこの目標に沿って、様々な取り組みを進めています。
地域別の取り組み状況
- アフリカ地域では、ジェンダー平等憲章の策定やマイクロファイナンスの推進などが行われています。
- アラブ諸国では、女性の政治参画や教育機会の拡大が進められていますが、大きな格差が残っています。
- アジア地域では、特に中央アジア諸国で、女性の賃金格差の解消が目指されています。
日本の取り組み
日本は1980年代に女性差別撤廃条約を批准しました。以降、国内法の整備や女性の参画促進に取り組んできました。しかし、ジェンダー・ギャップ指数では世界116位と低い位置にあります。女性の政治参画や経済的地位の向上が求められています。
女性差別撤廃条約の締結後、世界各地で進歩しています。SDGs目標5「ジェンダー平等の実現とすべての女性及び女児への能力強化」への達成には、まだ多くの課題があります。各国が連携し、更なる取り組みを進める必要があります。
アフリカ地域のジェンダー平等への取り組み
アフリカでは、家父長的な社会と男尊女卑の文化が強いです。これにより、女性は相続や所有権を得ることが難しくなっています。でも、近年この問題に対する取り組みが増えています。
スーダンでは、選挙法を改正して女性の議会議席割合を25%以上に設定しました。これは女性の政治参加を促すための取り組みです。女性運動も活発で、ジェンダー平等を訴えている人が増えています。
でも、家父長的な社会や慣習法・婚姻制度の変革は簡単ではありません。特に、相続や所有権に関する問題は深いです。しかし、アフリカ諸国が女性の権利を高めるために努力していることは大きな進歩です。
「女性の地位向上には、法制度の整備とともに、根深い文化的・伝統的なメンタリティの変革が不可欠です。アフリカ地域のジェンダー平等化への取り組みは、まだ道半ばといえますが、前進の兆しも見られます。」
アラブ地域のジェンダー平等への取り組み
中東地域のジェンダー格差の現状
中東地域では、教育や健康分野ではジェンダー格差が小さいです。しかし、経済や政治分野では格差が大きいです。特に、労働や管理職での格差が目立ちます。
エジプトでは2023年にエジプトジェンダー連合が立ち上がり、女性の雇用やリーダーシップ向上に取り組んでいます。
エジプトは人口が1億2,000万人を超える大国です。過去8年間で年率2%の人口増加率を示しています。2020年の女性労働力参加率は28.5%から2021年には29.4%に上がりました。
一方で、男性の労働力参加率は83.2%から82.8%に下がりました。失業率も2020年の7.9%から2021年には7.4%に下がりました。
教育分野でもジェンダー格差が残っています。初等教育では女子97.0%、中等教育89.9%、高等教育77.6%と、教育段階が上がるにつれて格差が広がります。
エジプトの国民の35.2%が高等教育を受けていますが、この格差は解消されていないのが現状です。
エジプトでは年間約790万人の女性が暴力被害に遭っています。経済的損失は約134億ドルと試算されています。
他のアラブ諸国でも、土地所有制度の男女格差や低賃金労働への女性の集中が問題になっています。伝統的な家族保護制度の崩壊やFGMなどの有害慣行も継続されています。
男性の性と平等への関与も低いです。一部の国では、コミュニティレベルでの取り組みも始まっていますが、根本的な格差解消には至っていません。
今後、中東地域では人口増加と若年層の増大が続きます。ジェンダー平等の実現は大きな課題です。教育の機会均等、経済的自立、政治参加の促進が必要です。
アジア地域のジェンダー平等への取り組み
アジア地域の中央アジアの4カ国(カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタン)では、女性の賃金が男性の約6~8割にしかない問題があります。賃金格差が深刻です。カザフスタンは2021年に国際フォーラムに参加し、女性の意思決定への参加を増やすなど、解消に向けた取り組みを始めました。
中央アジア諸国の賃金格差と対策
中央アジア諸国では、男女の賃金格差が深刻な問題となっています。カザフスタンでは女性の賃金が男性の約6割、ウズベキスタンでは8割に留まっています。これは、伝統的な性別役割分担やワークライフバランスが原因です。
カザフスタンでは、近年この問題に本腰を入れて取り組みを始めました。2021年には国際フォーラムに参加し、女性の意思決定への参加拡大やワークライフバランス支援策を導入しました。これらの取り組みが、アジア地域のジェンダー平等実現に貢献することが期待されています。
国名 | 女性の賃金(男性比) | 主な取り組み |
---|---|---|
カザフスタン | 約6割 | 女性の意思決定への参画拡大、ワークライフバランス支援 |
ウズベキスタン | 約8割 | 女性の雇用拡大、起業支援 |
キルギス | 約7割 | 教育・訓練の機会拡大、政治参加の促進 |
タジキスタン | 約7割 | 社会的インフラ整備による女性支援 |
ジェンダー・ギャップ指数による差別の程度の測定
世界経済フォーラム(WEF)が毎年発表する「ジェンダー・ギャップ指数」で、男女差別の状況を知ることができます。この指数は、経済、教育、保健、政治の4つの分野での男女の差を数値で表しています。完全な男女平等を1とし、差を示しています。
このデータをもとに、各国のジェンダー平等の進捗を客観的に評価することができます。
2019年の指数では、日本は153か国中121位でした。日本におけるジェンダー格差の問題が浮き彫りになります。経済分野では、賃金格差や管理職の偏りが問題となっています。教育と保健分野でも、男女の機会差が残っています。
ジェンダー・ギャップ指数は、各国がジェンダー平等を目指す取り組みを評価する上で重要です。日本も、この指数を参考に、ジェンダー平等を実現するための具体的な策を考える必要があります。
分野 | 日本の順位 | 主な課題 |
---|---|---|
経済 | 117位 | 賃金格差、管理職登用の偏り |
教育 | 65位 | 機会格差 |
保健 | 45位 | 機会格差 |
政治 | 144位 | 女性の政治参加の低さ |
ジェンダー・ギャップ指数は、各国のジェンダー格差の現状を示します。これは、男女平等を実現するための重要な指標です。日本も、この指数を参考に、さまざまな分野でのジェンダー平等を推進する必要があります。
女性差別撤廃条約、現代社会への影響
国連の「女性に対する差別撤廃条約」は、法律の改善から社会の意識改革までを求めています。この条約は、ジェンダー平等を実現するための大きな取り組みです。世界中で女性差別が続いているため、この条約をより実際に使うことが大切です。
日本では、女性の別姓制度や政治・経済での女性活躍を促す取り組みが増えています。国連の女性差別撤廃委員会は、日本政府に法制度の改善や意識改革を求めています。
この条約は、ほぼ全世界の国々が参加しています。しかし、個人通報や調査制度の活用は限られています。これらの制度をもっと使うことが、将来の課題です。
指標 | 数値 |
---|---|
女性差別撤廃条約の加入国数 | 189か国 |
個人通報制度の活用件数 | 139件 |
調査制度の実施国数 | 5か国 |
「女性差別撤廃条約は、女性の権利を守る上で大きな意義を持っています。条約の完全な実施に向けて、引き続き取り組んでいくことが重要です。」
– 元国連女性差別撤廃委員会委員長 林陽子
結論
女性差別撤廃条約は1979年に国連総会で採択され、1981年に実施されました。この条約は、女性差別をなくし、男女平等を目指しています。日本は1985年にこの条約に賛同し、定期的に報告をしています。
しかし、世界中でジェンダー格差が続いています。SDGsの目標5では、ジェンダー平等を目指しています。女性差別撤廃条約は、男女平等のための重要な枠組みです。
今後は、暴力や賃金格差など、女性差別を解消する取り組みが必要です。まとめとして、この条約の役割と影響を確認しました。